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自然・歴史的環境を後世に伝える

池本桂子さん 「ヘリテイジ・トラスト」――といっても、聞いたことがない人がほとんどだろう。「ヘリテイジ」とは相続や遺産を意味する英語で、「後世に伝えるべき自然や文化遺産」という意味も含まれている。この言葉を冠するNPO法人ヘリテイジ・トラストは、「遺贈(遺言による贈与)」に着目。自分の土地や建物を残したいという人と、その維持管理に携わりたい人をつなぎ、相続税など制度上の課題をいかにクリアーするかなどのサポートをすることで、売却や物納の危機から森林や建築物を守り、豊かな自然・文化環境を後世に残し、伝えていくことを目的に設立された。
■ナショナル・トラストを超えて
ヘリテイジ・トラストのミッションは、日本全国の自然環境および歴史的環境を保全し、市民に公開することだ。
「豊かな自然環境、長年かけて築き上げてきた美しい町並み、歴史ある建造物は、たとえ所有者がそれを残したいと思っても、維持・管理にはお金がかかるし、ライフスタイルや産業構造の変化などから、相続時に取り壊される例が後を絶ちません。こうして地域の宝物というべき原風景が失われていくのは悲しいことです」同団体の理事及び事務局を務める池本桂子さんはこう語る。
自然環境や歴史的建築物を残すため、所有者から買い取ったり寄贈・遺贈を受けたりして取得する市民運動として有名なものには、イギリス生まれのナショナル・トラストがある。どう違うのか。
わが国のナショナル・トラスト運動は、1960年代に始まったと言われる。トラスト活動を進める団体は各地にあり、全国組織としては、環境省所管の(社)日本ナショナル・トラスト協会と、国交省所管の(財)日本ナショナル・トラストがある。前者は主に自然環境を保全する団体から構成されたネットワーク組織で、自ら資産を保有し保全する事業は行っていない。一方、後者は主に文化的資産の保全に取り組み、買い上げや寄贈を受けるなどして、自ら資産を所有し保全している。
ただ、日本のナショナル・トラストは現在までに期待されたほど大きな成果をあげていないと言われる。理由として、日本は不動産価格が高く、募金を集めてもまとまった土地を買うことが難しいことや、イギリスに比べて土地所有権が細分化されているので買い取り交渉が大変なことなどがあげられる。また、寄付の文化がないと言われる日本では、そもそも募金が集まらない。
しかし、これは人々に寄付をする気持ちがないのではなく、むしろ寄付を支える「制度」が不十分であることが問題なのではないか?――(社)日本ナショナル・トラスト協会で働きながら全国各地のナショナル・トラスト活動を見ていた池本さんはこう考えた。同協会に3年半勤務するなかで、「がんばりだけでは乗り越えられない法律の壁に何度もぶちあたった」という。
そうしたくやしい思いを重ねるうち、池本さんは新しいトラストの必要性を痛感。2001年の夏に同協会を退職し、ヘリテイジ・トラストを設立。その後NPO法人化した。
■本家英国では「なんでもあり」、法律や寄付の習慣も後押し

英国中の海岸線を買い取る運動「ネプチューン計画」も遺贈のおかげで大成功をおさめた。英国ナショナル・トラストの底力。 ヘリテイジ・トラストは、ナショナル・トラストの手法のうちでも「遺贈」に注目し、重点を置いた運動だ。なぜ遺贈なのか。その理由を知るためにも、ここで本家イギリスのナショナル・トラスト運動と制度を見てみよう。
イギリスのナショナル・トラストで保全対象となる資産は、貴族のお屋敷から城などの歴史的建造物、有名人の家、美しい自然の景勝地、海岸線、庭園、農地、産業遺産、遺跡など種類を問わない。つまり、「なんでもあり」だ。こうして保全された資産は「プロパティ」と呼ばれ、イギリスのナショナル・トラストはスコットランドを除くイギリス全土にプロパティを所有し、民間では国一番の土地持ちだ。

ウィンストン・チャーチル首相の邸宅とその周辺地。チャーチルの死後 ナショナル・トラストに 寄贈され、今日まで管理・公開されている。 特筆すべきなのはそうした活動を支える制度・寄付の長い歴史があることだろう。ナショナル・トラスト法という特別法があって、ナショナル・トラストに永続的な特権を与えている。特に大きいのはナショナル・トラストに財産を寄付すると相続税の課税対象から外れる優遇措置。遺言を書くことが一般的に行われているイギリスでは、この優遇措置以降ナショナル・トラストが驚異的に広まり、それがプロパティを、ひいては会員を増やすきっかけになった。
寄付された資産については、国の収用などを除けば転売することができない「譲渡不能」の原則、管理方法の独自設定権、入場料徴収権などによって安定的に管理運用されるので、所有者も安心して遺贈できるわけだ。
しかし、日本で同じように遺贈に頼りたくても、相続税のハードルが今も高く大きい。実は日本にもイギリスのような優遇制度があるにはあるが、その制度を活用できるナショナル・トラスト団体は公益法人のうちほんの一部。全国各地から寄せられる相続財産寄付の要望に応えきれていないのが現状だ。
そこで考えたのが、折から改正論議が高まっていたNPO法人の支援税制に、相続に関する項目を入れてもらうことだ。これが実現し、2001年に制度化された「認定NPO法人」に盛り込まれた。同制度は一定の要件を満たすとして認定を受けたNPO法人に対して支出した寄附について特例措置を講じるものだが、その中の一つに「相続又は遺贈により財産を取得した人が認定NPO法人に対して行った相続財産等の寄附」が入ったのだ。
これにより、相続税の申告期限までに寄附した場合は相続税非課税となり、イギリスのナショナル・トラストと同様の制度を利用できる団体の門戸がひろがったのである。しかし、約1万3000団体のNPO法人のうち、認定NPO法人はわすか14団体と1000分の一の「狭き門」。先般の法改正で緩和されたとはいえ要件が厳しすぎるという批判は多い。ヘリテイジ・トラストとしては、一刻も早く認定NPO法人になることを目指すとともに、より使いやすい制度にしていくための運動も視野に入れている。
■NPOによる自然環境・歴史遺産保全のモデルに

大正7年に建てられた近代和風住宅「旧安田邸」。
(財)日本ナショナル・トラストに寄贈され管理されている。 ヘリテイジ・トラストの活動には、1)土地や建物をどこかへ寄付したいという人からの相談事業、2)ヘリテイジ・トラストが立ち上げる保全事業、3)遺贈の仕組みづくりの調査・研究――などがある。
土地や建物の所有者にとって、まずは相続資産の調査・税額試算をきちんと行うことが重要。「税制面でのコンサルタントと保全活用プログラムをセットで提供していきたい」と池本さんは話す。
ヘリテイジ・トラストの活動は、昨年になってがぜん現実味を帯びてきた。ある林業家が、自分がいなくなった後も山林・家屋敷を何らかの形で保全・活用してほしいと考え、ヘリテイジ・トラストに相談してきたのだ。その林業家は、何代にもわたり林業を続けてきたが、林業が低迷をしている今、後継者がおらず、しかも相続税は数億円にのぼる見込み。愛着ある山を守るためにどうすればしたらよいか、半ば途方に暮れていた。
池本さんたちは、森林や家屋敷を現状のまま残しながら保全・活用する手法づくりが必要と考えた。そこで、まず税理士の協力を得て資産一覧を作成し、税額試算をすることから始めた。所有者の持つ資産がとにかく多すぎて、誰がどのように利用しているのか、または利用していないのか、その現状が把握できていなかったからだ。また、大学の教員と学生と共同で、資産活用者や団体を対象にした社会調査も行い、資産の優先順位付けやマップ作りも行った。資産状況を把握し、資産をできるだけまとまった規模で保全することにについて親族から理解を得られれば、現状維持または資産売却は最小に抑えられる。
こうした活動の結果、所有者はヘリテイジ・トラストを信頼し、遺言作成から親類などとの協議、資産処理、事業開拓、管理・運営をまかせたい、と考えるようになり、現在、遺贈による大規模な環境保全・活用の実現策を検討している。
ヘリテイジ・トラストのNPO法人3期目の2003年度は、ホームページ立ち上げなど広報面の充実や、将来遺贈が想定される案件についての保全管理プログラムの策定のほか、資産を環境保全のために活用したい個人のニーズに応えられる税理士や弁護士など専門家向け研修など、一歩踏み込んだ取り組みに力を入れていく方針だ。
また、現在進めているプロジェクトは林業だが、日本の多くのトラスト団体もぶつかっている「農地」の問題。農地法上、農民でないと農地が買えないのだ。こういった問題にも、「一件一件ぶつかって、考え、実践することを繰り返しながら、縦割りに細分化された法律をどうしていけばよいか検討していきたい」と池本さん。「ヘリテイジ・トラストそのものが大きくなるのではなく、モデルになりたい。私たちの手法が成功すれば、それをうまく取り入れて活動する団体が増えるのでは」と夢をふくらませる。
(※この記事は、「NETS=環境NPOネットワーク」2003年5月31日勉強会「自然環境・歴史的建築物を次世代に伝えるために/NPO法人ヘリテイジ・トラストの挑戦」他から作成しました。<本文まとめ=後藤隆/エコ・アドボカシー・プランナー>)
関連サイト
“The National Trust”公式ホームページ
エコ・リーグ&YEN、「環境」をテーマにした若手交流会
<2003年6月8日、東京・国立オリンピック記念青少年総合センター>

プロジェクト分科会の様子環境に関心のある社会人を対象とした「環境系若手社会人ギャザリング」が、エコ・リーグ主催、YENと「環境」をテーマにした若手交流会の共催で行われた。主催団体らはいずれも環境に関心を持つ若者のネットワークや集まり。ギャザリングには主に20~30代の社会人約60名が参加し、会場は早くからにぎわっていた。
■目指すのは「広く深く」て「次につながる」きっかけづくり
この交流会の実行委員長は、環境コンサルタント会社に勤務して3年目の生田雄一さん。「環境に関心のある若手社会人の交流会はあったけれども、広く浅くの付き合いが多くて次につながらないことを実感していたため、そうではないもう少し深い交流、名刺交換プラスアルファの、広くて深い今後につながる交流のきっかけにしたかった」と今回の企画理由を話す。
今までにも交流会を企画し、いろいろな業界・業種問わず環境意識がある人を集めることには成功してきたものの、その場限りで終わってしまって次につながらないことに悩んできたという。そこで、今回はギャザリングの中心としてプロジェクト分科会を企画、様々な活動を実際に行っている人を囲んで情報共有を行ったり、アイディアを話し合ったりする場を設定した。
分科会は全部で12あり、そのうち5~6の分科会が平行して行われる時間が4回設定され、参加者はそのつど希望プロジェクトを選んで参加できる方式。オフィスで使う新しい環境グッズを考える「エコオフィスグッズ選手権」から、法政策を考える「環境権プロジェクト」「緑の政策プロジェクト21」といったものまで幅広い活動が紹介され、各回ともそれぞれのテーブルで活発な意見交換が行われていた。

出展プロジェクト分科会一覧※出展プロジェクト分科会一覧
エコオフィスグッズ選手権
環境コミュニケーション現場の声プロジェクト
環境権プロジェクト
研究発表・意見交換会
こまめプロジェクト
渋谷Flowerプロジェクト
My Bottle Campaign
CSR(企業の社会的責任)研究会
緑の政策プロジェクト21
時間管理術共有プロジェクト
留学・再就学相談会
地球とコラボ♪プロジェクト
このギャザリングで受付をしていた、YENのメンバーで現在は環境アセスメントなどを行う会社に勤務している女性は、「環境問題には小さい時から関心があり、何かしたいと思い続けていたものの、何をしたらいいのかわからなくて大学時代は特に活動はしていなかった」そうだ。それが、会社に入って同期からYENのことを聞いて参加したのをきっかけに一転したという。
「YENでは、環境問題に関心のある仲間がたくさんいて、大学時代から活動している人も多い。こういうサークルがあることを大学時代に知っていたらやっていたのに・・」と残念そうに話してくれた。
■専門外の人にもわかりやすく・・環境系研究発表会

若手研究者による研究発表会 今回のプロジェクト分科会のうちで異色だったのは、「環境」を切り口とした、分野横断的な若手研究者による研究発表会。
これは、専門を持った学生・研究者が、専門外の人にも分かるように発表を行って意見交換を行うことを目的としたもので、企画したのは農学系大学院修士2年の加藤靖之さん。昨年2002年10月に第1回目を行って50名弱の参加を集めたのに続く2回目の開催。今回の発表者は、MLなどでの参加の呼びかけに応えた文系と理系の大学生、大学院生ら5名だ。
発表を行った1人、気候変動について研究を行っている博士課程2年の原田千夏子さんは「温暖化のことをあまり知らない人に、じゃあ実際どう思っているの?と聞いてみたかった」と参加の動機を話す。「研究を行っても現時点で何%温暖化するというようなことは断言できないし、それが難しいところ。ただ、このままだとこんな風になる、とかいう予測の情報公開が必要であるとは感じている。知られていないことをそのままにしておくのではなくて、もっと知らせるように研究者側も努力していかないといけないと思う」とのこと。
ただ、実際には研究者側に情報発信の大切さを考えている人がどのくらいいるのかという疑問も口にしていた。
■夜になっても話は尽きず
夕食をはさんでプロジェクト分科会は2回ずつ計4回行われ、午後一番に始まったギャザリングが終了したのは21時前。それでも話が尽きないグループがそこかしこに見られ、会話に花が咲いていた。ある参加者は、「人脈ができたので参加して良かった。日本もまだまだ捨てたものじゃないと実感できた」と話してくれた。
生田実行委員長は「具体的なテーマ・アクションなど、既に一つの形としてあるものを提供することで、そこに継続して参加することもできるし、もしくはそれを参考にして他のアクションに展開することでもいい。とにかく、何か次につながることを目指していきたい」と力説した。
「広く深く」を目指したこのギャザリング。各プロジェクトや参加者の今後の動向に注目したい。
(野口朋子/インフォメーション・プランナー)
| 「環境」をテーマにした若手交流会・・・環境に関心のある大学生・社会人を対象としてほぼ半年毎に開催されている。過去4回行われ、毎回100名程度の参加者を集め、幅広い交流ができる企画として成功している。 |
| YEN・・・こちらも環境に関心のある若手社会人中心のグループだが、顔の見える関係の中で活動をしている。2ヶ月に1度の定例会と、YEN内部のプロジェクトごとのミーティングを随時開催している。ちなみに、今回紹介されていたプロジェクトのうちいくつかはYENのプロジェクト。 |
| 1994年8月に発足した環境NGOで、メンバーは10~20代の青年。専門分野、性別、地域、年齢、職業などに関わらず、それぞれが自分にできることを見つけ、環境問題解決に向けて活動している。 |
関連サイト
全国青年環境連盟(エコ・リーグ)